あの人の物語 ~がん終末期と植物療法~ Vol.5

緊張感のある朝。

 

5回目の訪問の朝。腎瘻カテーテルの交換という大きな処置を控えている。

私の訪問は腎瘻交換処置後に予定されていた。

処置がうまくいかなければ、植物療法はできない。

彼女に会いにいくことはできないだろう。

 

訪問前日 : 担当理学療法士さんからの報告

 

本日シャワー浴びましたが、かなりしんどそうです。
安静時でも呼吸が苦しい状態です。

日々動けなくなる身体で、親子で頑張っておられます。
素敵な親子です。

明日の、植物療法楽しみにされています。
ただ、それ以上に腎ろう交換が不安のご様子です。

帰りの際の『ありがとう』の声が耳に残りました。

 

 

 

腎瘻交換処置が無事に終了したと連絡をいただき
彼女の自宅へと足早に向かった

 

 

「あゆみさん、待ってました!」

酸素飽和度 87% 在宅酸素を使用しながらの数値

かなり苦しい厳しい状態の中、

彼女は笑顔で出迎えてくれた。

 

 

 

 

透き通るような、体をゆっくりと、触れていく。

 

 

 

ひと触れ

 

ひと触れ

 

じんわりと感じさせながら触れる

 

 

 

 

彼女と私

言葉がない時間

お互いの手と身体の感覚に意識を集中して

心の中で対話をする

 

 

 

「怖い?」

 

 

「うん、怖い…

 

「うん、…

だよね、だけど大丈夫,今、繋がっているから大丈夫
一緒に安心しよう」

 

 

「うん、

安心してきた、大丈夫、ありがとう」

 

 

実際にこのような対話をしたわけではなく

彼女と私の心の対話

 

 

私の勝手な解釈という人もいるだろう

しかし、これは長年人に触れる仕事で培われた感覚

触れることで伝わる相手の感情にフォーカスしていく

 

 

 

そこから彼女と私は、

徐々に安心と緩みを感じ、同調していく

 

 

 

 

 

「不思議なんだけど
今、全く息苦しくないです」

 

 

 

 

 

もう決して長くはない、

それだけは今ここにいる誰もが分かっている。

彼女もわかっている

お母様もわかっている

だれもそのことについて口にすることはない

 

 

 

 

間もなく訪れる『最後の時』に

 

 

 

 

皆がおびえているような不安と緊張につつまれた空気だった そんな空気の中、

 

おこなう植物療法は 彼女と私が織り成せた同調により

 

そこにいる全員の不安が、安心へと移り変わった時間だった。

 

 

 

「歩見さんはいてくれるだけで、癒しのパワースポットだよ」

 

 

 

 

 

穏やかな笑顔で、彼女は静かに伝えてくれた。

 

 

 

「また来週ね」

 

 

 

 

2 人で繋いだ手と手を握りしめたまま

 

この手を離したら、

もう二度と会えないかもしれない

透き通るような透明な瞳に

お互いに言葉にならない思い

名残惜しくて、離すことができず

何度も無言で手を握り合う。

 

 

 

玄関のドアに手をかけて、

一瞬、身体が止まる

 

 

もう一度、戻る?

どうする?

ためらいを振り切るように、その場を後にした

 

後悔は無い けれど

 

 

 

 

 

 

あの時もう一度、振り返って、抱きしめたかった
彼女の『優しい温もり』を感じたかった

 

 

 

訪問翌日の朝

昏睡状態になり、会話ができなくなったと連絡をいただいた。

 

その一報を聞き、

近くの公園へ向かい、酸素をたくさん吸いに向かった。

彼女の代わりに

何度も何度も深呼吸をした。

 

 

 

 

 

 

「ああ、もう、きっと苦しくないね。」

 

 

 

 

 

 

 

そう心の中で彼女に語りかける

ありがとうの感謝の気持ちがあふれ

とめどなく涙が落ちてくる

 

日が暮れ始めたとき

彼女は息を引き取った

 

 

 

 

 

 

亡くなられた翌日

担当理学療法士、看護師さんと共に彼女に会いに行った。

 

 

お母様は笑顔で、こう話してくれた

 

 

 

 

娘を自宅でみることが出来て良かったです あの子はね、

いつも、こう言ってたんです。

 

 

「お母さん。私ね、こう見えて幸せなの。他の人からみたら 病気ばっかりでかわいそうに見えるかもしれないけど たくさんの素敵な人たちに巡り合えて、私ってラッキーだよ!」

 

 

って だから、私も、

辛いことはなくて、毎日楽しかったんです。

 

 

お父様は

「娘は、本当に幸せでした。 自分に何があっても安心して信頼できる、皆様がいてくださり、

幸せでした!!
本当に、本当にありがとうございました!」

 

そう、泣き叫ぶようにお礼を言って下さった。

とても真摯で、愛情深さと強さは彼女とよく似ていた。

 

 

 

大切な家族が病に倒れ、『死』を覚悟した時に 本人の思いを尊重し、すべてを受け入れることは容易いことではない。

 

 

 

 

「自分にしてあげられることは、すべてしてあげたい」

 

 

 

 

 

自分よりも早くに旅立つ娘を介護し、送り出すことを覚悟されたご家族

 

そして、植物療法士である私を受け入れてくださった皆さんに 心からの感謝の言葉を伝えた。

 

 

 

私自身、

 

在宅医療の終末期のケア・看取りまで関わらせていただくことは、 初めての事でした。

病状の変化や医療処置を目の前で見ることの怖さと不安がありました。

 

民間資格者が、在宅医療でリンパ浮腫のケアや、痛みの緩和、リラクゼーションに 携わることは、非常に稀なことです。

 

 

 

植物療法といいながら、植物の力だけではなく

私の施術は

触れること、触れ方に重きをおいています。

それが人を癒す事の可能性が高いことには、

確固たる自信をもっています。

 

 

むしろそれでしかなく、格好も付けようもない。

それ以上でもそれ以下でも無い。

ありのままの等身大の自分のできる全てを施すのみ。

 

 

 

今回のがん終末期の方との関わりにおいて

 

 

「歩見さん、全然大丈夫だから!!

遠慮せずに、そのままの歩見さんで来て下さい」

そう。言われた気がしました。

 

 

 

彼女が、先に、私に安心を与えて下さり
全力で受け入れて下さったのだと思います。

 

 

 

私が出逢う前からずっと

 

全ての治療法

最期までの過ごし方

その全てをご自身で選択をされた

 

ご自身の人生に責任を持った方。

 

 

「なかなか、あのような方はいらっしゃらないです」

彼女を知る多くの方は、このようにおっしゃる

 

 

人として、生き様がとても素敵な方。

 

彼女との時間は、

今後の私の人生において

大きな意味をもつ出逢いだったと思います。

 

 

「幸せな最期」のためにできること。


植物療法士として、できることは何か?

 

そんな問いを託された。

なにか、そんな気がしてなりません。

 

彼女に敬意を込めて。ありがとうをお伝え致します。

 

 

そして最後に

 


在宅医療での植物療法の自費提供を認め、信頼し、情報提供や難しい場面でのリスク管理、スケジュール等

 

全てのサポートと行動を共にしバックアップして下さった、宮崎さんはじめ医療者の皆様、心より感謝申し上げます。

『目の前の方の真意をどれだけ形にし、幸せ well -being へと繋ぐことができるか。』

forest styleとして

これからできることを教えて頂いた、そう確信しています。

 

あの人の物語 〜がんの終末期 Well beingな生き方〜