あの人の物語 ~がん終末期と植物療法~ Vol.4

植物療法士の森 歩見です。

 

1週間に一度の訪問、そのたびに病状はどんどん悪くなっていることをどう受け止めたらいのか?

 

がん終末期の方への施術が初めての私にとって、大きな課題だった

 

医療的なことは担当看護師さんからの申し送りや自分なりの学習で理解できるが

死に直面している方と、どう向き合っていけばいいのか?

自分の心のありようを探っていた。

 

4回目の訪問

 

呼吸困難の症状が常にあり、酸素なしでは過ごせなくなっていた。

 

自分の力で動くこともままならず、誰かの手を借りないと動けなくなっていた。

 

残された時間は刻一刻と細く削られている。

 

 

「あゆみさん、待っていました!」

 

 

笑顔と気遣いの声もすっと薄白いような印象を受けた。

 

今日は呼吸器系に作用する

ローズマリー、ユーカリ・ラディアータを選択した

 

ローズマリーの効能
無気力や自信を無くした時などの集中力のアップ

 

ユーカリ・ラディアータの効能

気管支炎や喘息などの呼吸器系に効果的
緊張やストレスを鎮静させる

 

「ああ・・。呼吸がしやすい」

 

 

 

植物の香りをいっぱい吸い込んでいる顔は笑顔と絶望感が共存しているように見えた。

 

 

 

足のリンパ浮腫は1回目の施術から比べると、軽さ、皮膚の滑らかさは良くなっている。

 

病状は進行しているが、週1回でも、リンパ浮腫のケアをしていることが、

浮腫の悪化、リンパ漏、スキントラブルの予防に効果をもらたしていることは明らかだった。

 

 

自力では立つことができなくなったため、これから室内で使用するための車椅子が届くという。

 

 

室内を少しでも移動できると、景色が変わり、喜びを感じられる。

 

ベランダからの景色と外の風を、もっと近くで感じられる。

 

洗濯物を干す、台所に立つお母様との会話を、もっと近くで楽しめる。

 

それが、QOL 生活の質を向上させ、生きることの希望 につながることを知った。

 

 

 

お母様が別室で福祉用具業者の方と打ち合わせしている中、

 

私は彼女とつかの間の二人きりの時間を過ごしていた。

 

 

「 歩見さんの手って、本当にすごい。今、痛みゼロです。

昨日、訪問看護師さんに手伝ってもらって、シャワーに入ったんだけど。

とても、とてもしんどくて、

こんなにも自分のカラダが動かないのかって、辛かった」

 

 

今日は自身の中に潜り込んでる感じだった。

 

そんな時、お母様の笑い声が聞こえてきた。

 

「お母様、楽しそうですね。このあと、車椅子、乗ってみますか?」

 

 

「今日は、私の唯一の癒しのこのアロマの時間だけで充分です」

 

 

自身が動けないことへの怖さがあり、

これ以上自信を失いたくないのだろうと思った。

 

 

心身の緩まるリラックスの時間を思う存分楽しんでいただきたいと

寄り添いながら、彼女の呼吸に合わせるように意識を集中させる。

 

 

がんの終末期だとしても、最後の一息の時になったとしても。

 

 

ふいに

 

「ダイビングってしたことある?」と聞いてみる。

 

「運動関係は全く。ダイビングなんてもってのほかです」

 

「ダイビングって、潜っているときは酸素ボンベ使って呼吸するんだけど、

とにかく吐かないと、酸素を吸えなくて。

海の中に潜るとどこまでも続く闇にのみ込まれそうで、

人間の住む世界じゃない深みに怖さを感じるんです」

 

「呼吸が乱れて息が吸えない苦しさに焦ってしまうと、

余計苦しくなってしまって、

インストラクターの方に、

力を抜いて、息を吐いてくださいって必ずアドバイスされます。」

 

「そこから気を取り直して、

吐くことに集中して脱力をしていくと

急に視野が広がって、

ああ、今、私は海の中にいさせてもらえてるんだって実感するの」

 

「呼吸が落ち着くことで、

海の中の自然の美しさを観ることができて

とても感動できるんです」

 

「ものすごい泳げる人っぽく語っているけど、

めちゃ、初心者向け体験ダイビングの話です(笑)

だけれど、

息苦しい時こそ、吐くことがとても大切です。」

 

 

ユーカリ・ラディアータとローズマリーと共に

本人の胸と肋骨に手を当てながら、

ため息をつくように、ゆっくりと深呼吸を促していく。

「ああ、本当だ、すごく楽になってきた」

「気持ちいい」

「よかった・・・」

 

落ち着きを取り戻されたところで、お母様が戻ってきた。

 

 

お母様が笑いながら言う。

 

「私、車椅子に初めて乗ったわよ!私には(座面が)高くて!

足がプランプラーンって、なっちゃって、おかしくて!」

 

 

「ちょっとお母さん!私の車椅子よ!(笑)

お母さんに先に乗られちゃった(笑)

うーん、試しに乗ってみようかな」

 

 

顔色が良くなり、笑ったその顔は深い海の底から戻ってきたよう。

 

いつものように、和やかで明るい笑いの時間となり、ホッとした。

 

どんな状況下だとしても、素直に試したり、そして前向きに挑戦する。

 

 

その姿に、

 

私が毎回、毎回、会うたびに勇気を頂いている。