あの人のストーリー Vol.3
3回目の訪問
私も彼女に会えることが心から楽しみにしていた3回目の訪問。
訪問予定の数日前から、痛みの増強と、動機や息苦しさの症状にともない
不安や恐怖が強くなってきていると申し送りがあった。
この先、自分がどうなってしまうのか、自分が自分じゃなくなってしまう感覚
痛み、呼吸困難、動悸、吐き気などの症状
そして、死への恐怖・・・
彼女が抱えているものは、私には計り知れない
今、どんな気持ちで、いらっしゃるのか・・・・
「次は、もっと強い痛みがくるのではないか
次に激痛がきたら、自分はどうなってしまうのだろうか・・・」
この予期不安の中にいる彼女に、植物療法士として、できることを考える
植物のチカラをしっかり生かすこと
安心感を感じられるように、今の彼女にあう精油の選択
思い浮かんだのは、ネロリ
*ネロリの効能
天然の精神安定剤
緊張から生じるあらゆる情動を鎮静、深い悲しみを温かく包み、孤独感、気力を取り戻す。
神経過敏からくる動悸などにも効果的で交感神経を鎮める効果が期待できる。
ストレス性の消化器系の不調にも優しく働きかける
準備を整え向かったが、その日は地震の影響で交通機関に大幅な乱れがあり
予定時間に到着できないかもしれない。
おまけに彼女の自宅近くで火事があり、周辺は大騒ぎだとの情報も。
焦る気持ちを落ち着かせて、大幅に遅れてだが、なんとかご自宅に到着することができた。
「歩見さん、待ってました!大変でしたね!!」
笑顔で出迎えてくれたが、顔色がすぐれない。
まずは、笑える時間が必要だ。
今日は、どうしても、このネロリの精油をお届けしたくて!
だって、ネロリの精油、実はめちゃくちゃお高いんです!
この日のために発注したの!
だから、何がなんでも、このネロリだけは届けたくて!
恩着せがましく、やってきましたー!
みんなでネロリの精油を次々に嗅ぎながら、「これが高い精油ね!」と大笑い
いつものように両足の施術をすすめながら、時間は静かに過ぎていくなか、
不安って・・・・ありますか?と聞いてみる
「はい・・・。痛みが襲ってくると思うと怖い・・・・」
そうですよね。
それは、予期不安といって、不安が不安を呼んでしまうこともあると思います。
まだ、痛みがない段階でも、先回りして、痛みのことを考えて、
怖いと脳が反応する状態もあるかと思います。
とても難しいけれど、痛みがない時に安心して過ごせるように、ネロリを準備してきたんです。予期不安がネロリの力で少しでも緩和されるといいな。
「それはとても嬉しいです。今の私に必要なアロマですね。
あのね、歩見さん、。。。
全身触ってほしいんです。。。
歩見さんに触ってもらえると本当に痛みがゼロになるんです。
そのあと、2日は痛くないんです。本当にすごいことです・・・・」
その言葉は植物療法士、セラピストとして、とても嬉しかった。
でも、彼女に安心感を与えられる人がいつも傍にいらっしゃる。
それは、一緒に生活されているお母様。
彼女の病気が分かってから、ずっと寄り添ってこられたお母様。
彼女とお母様の絆はとても深い愛情と感謝でつながっている。
それは、お二人に初めて会った時から感じていたこと。
今日は、お母様が自分の娘さんに、たくさん触れる時間にしてほしい
そう考えていた。
触れることは安心・信頼・絆ホルモンと言われるオキシトシンという脳伝達物質が分泌されるといいます。オキシトシンは母親が我が子を抱き、保温することで、赤ちゃんの中にオキシトシンが多く分泌され、安心し、不安や恐怖、ストレスを拭い去ることができ、快の情動レベルがあがり、生命維持につながると言われています。母親になった方が赤ちゃんと一体になった感覚を表現することがありますが、その際にお母さんのなかに大量のオキシトシンが分泌されることが分かっています。
彼女がこの世に生まれた時、きっとお母様は歓喜と共に優しく胸に彼女を抱き、
少しづつ育つ小さな手を握り、幾度となく導いてこられたことでしょう。
成長とともに、自立し、手は離れていくものだが、
身体と心は触れた感覚を記憶している。
その感覚を、お二人に今いちど、感じていただきたい。
言葉にならなくても、お互いに感じあえるものがあるはず。
お互いが触れあえる時間がつくりかった。
ネロリは美肌効果も抜群なんです。
私が右手のマッサージをするので、お母様、反対の手をお願いしてもいいですか?
みんなで、ツルツル美肌の手になりましょう!と言ってみる。
突然の提案も、快く引き受けてくださるお母様
彼女の手を優しく包み込むお母様の手
まるで、小さい子供の手を慈しむかのような手つき
「なんだか、とても不思議な感覚です。気持ちがいい・・・」
大きな安心感の中にいる彼女の深い、穏やかな呼吸にお母様の表情も、より優しくなる
「私も貴重な体験をさせてもらっちゃったわ。ありがとうございます。」
お母様の言葉に、空気が和やかに明るくなった。
私が帰ったあと、二人はどんな会話を交わすのだろうか?
こんな時間が、できるだけ長く続きますように・・・祈りながら
来週も訪問する約束させていただき、
今日のこの時間に感謝して、ご自宅を後にした