あの人の物語〜がん終末期と植物療法 Vol.1

こんにちは forest  style 植物療法士の森です

 

 

私は植物療法士、アロマセラピストとして多くの方に施術をおこなってきました。

 

その多くは不定愁訴と言われるような心身の不調を抱えるかたや、リンパ浮腫に悩むかた。

 

2022年夏

 

私はforest看護師の宮崎と共に

ある『がん終末期』の方の自宅を訪問し、植物療法をおこないました。

私自身、『がん終末期』のかたへの植物療法は初めてでした。

 

彼女は40代女性

 

卵巣癌から多発性転移により、入退院を繰り返しながら

最後は自分の意思で自宅で過ごすことを選択。

訪問診療、訪問看護のサービスも利用されていました。

そして、家族に見守られながら、大好きな自宅で、静かに息を引き取りました。

 

彼女との関わりは亡くなる前の1か月、

計5回の訪問による植物療法でしたが、

彼女の命が輝く瞬間と一緒に過ごした時間は

私に多くのギフトをもたらしてくれました。

 

彼女はこの世にはいません

 

しかし、私の心の中に、今も彼女は生き続けています

彼女と、そして彼女の家族

携わる医療スタッフとのストーリーを通して

『生きること』

『植物療法』の可能性について考えてみました。

 

読んでいただけると幸いです。

 

 

ストーリー Vol.

「がん」「終末期」の方との出会い

 

彼女との出会いは

彼女の訪問リハビリを担当している理学療法士さんの何気ない一言がきっかけだった。

 

2017年発症の卵巣がん以降、数々の転移により治療、入退院を繰り返してきたが、

残された治療の選択がなくなり、

「最後は自分と母で自宅で静かに過ごしたい」と希望され、

 

訪問診療、訪問看護を利用しながら生活している方とのこと。

 

 

ここ数週間、病状が急激に悪化し、断続的に襲ってくる強い痛みと両足全体の強い浮腫によって、

 

自分の力で動くこともままならなくなってきたため、

 

担当の理学療法士さんが

「リンパ浮腫のケアをしてあげたい」

「香りが大好きな方だから、アロマによるリンパマッサージがいいんだけど」

 

と相談してくださったのがはじまり。

 

 

私自身、『がん終末期』の方への施術は未経験。

 

不安もあったが、担当の訪問看護師さん、理学療法士さんが一緒にいてくださり、

医師との連携やリスク管理をおこなってくださるということで、訪問を決めた。

 

 

ご本人は自分の命が長くないことは理解されており、

 

「残された時間を楽しみたい!自分にしてあげられることは、全部したい!」

 

という彼女の希望を事前にうかがい

植物療法士として私が出来ることはなんだろうか?と考えた。

 

 

 

「初めまして! 森さんですね!」

 

「今日はとっても楽しみしていました!よろしくお願いします!」

 

 

大きな瞳に嘘偽りのない、芯の強さを感じた。

透き通るような笑顔に、なんて美しい方なんだろう・・・そんな第一印象だった。

 

 

痛みと香り

 

訪問時、腹部に強い痛みがあり、笑顔なんだけど、苦痛で顔をゆがめている。

 

 

「こんなに痛いのはじめて。どうしよう・・・せっかく来ていただいたのに」

 

「でも、大丈夫!薬を飲めば落ち着くと思う!」

 

痛み止めの麻薬を飲んで、痛むお腹に担当看護師さんがじっと手をあてて

痛みが緩和するのを、みんなで息をこらして待つ。

 

私にできることは香りでこの緊張した空間を和らげること

試しにゼラニウムの香りを彼女の顔の近くに置いてみた。

 

部屋全体に広がるゼラニウムの香り

 

そこにいる皆が深呼吸をして、香りに意識を集中すると

ふっと、空間の緊張が和んできた。

 

*ゼラニウムの効能

自律神経やホルモン分泌のバランスを回復
体内の余分な水分や老廃物の排出を助ける

 

 

両下肢のリンパ浮腫に対する施術

 

今回の施術はリンパ浮腫の改善が目的ではなく、

 

タッチングによる安寧

リラクゼーションと香りが大好きな彼女への癒しと楽しみの時間の提供を主とした。

 

 

「こんなにむくんでしまって、自分の足じゃないみたい。」

「手を使わないと動かせなくて。とにかく足が重くてツライんです・・・」

 

 

両足全体がむくみ、毛穴が開いてきているが、皮膚の状態は良好。

傷やリンパ漏はなく、非常に柔らかく、きれいな皮膚をしている

 

40代という年齢もあるのだろう

 

 

植物のチカラと施術で、思っている以上に浮腫を軽減させることができるかもしれない

自分の中にある自信と経験から大きな期待感が湧き出るが、

 

次、彼女とかならず会える保証はない

 

 

『今』しかない。

『今』私ができることを精一杯やろう

 

 

彼女の胸元には、ペパーミントで鎮静と呼吸へのアプローチ

両足にはゼラニウムのオイルで施術をおこなう

 

 

ペパーミントの効能

活性をさせて、鎮静を促す。
呼吸器系の不調・消化器系の不調に効果的

 

「気持ちがいい・・・お腹も・・足も・・・」

「手って、スゴイですね。痛みが引いてきました」

 

 

痛み止めの効果も相まって、彼女がどんどんリラックスしてくるのが伝わってきた。

 

私が植物療法士として大事にしていること

 

それは『お一人様 ひと笑い』

 

笑いは、身体的には筋肉の緊張状態を軽減させ、心理的は余計なことを考えさせない

つまり、心を無にすることを促す。

笑うことで、内から新しいエネルギーをくみ出し安定した精神状態を獲得することができる

引用:健康長寿ネット 笑いがもたらすリラクセーションの効果

 

他愛もない話をして、彼女も、お母様も、そこにいるみんなで、笑う。

 

笑うことで、つかのまでもいいから、痛みや苦しみから解放される時間を提供できたら

 

どんなことでもいいから、笑わせて、一緒に笑いたい。

 

こうして、約一時間半の施術は、無事に終わった。

 

「あー!楽しかったです!」

 

「次は来週!また、お願いしたいです!」

 

輝くような、とびきりの笑顔と、次に会う約束をいただき、帰路につく私だった。